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名古屋高等裁判所 昭和43年(行ス)1号 決定

抗告人(申請人) 西山勇 外二七名

相手方(被申請人) 田原町教育委員会

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人等の負担とする。

理由

抗告代理人は「原決定中抗告人らに関する部分を取消す。相手方が抗告人らに対し昭和四三年三月一五日付でなした抗告人らの児童(抗告人らと各児童との関係は別紙のとおり)をそれぞれ田原町立神戸小学校へ進学せしむべしとの通学校指定処分の効力は右当事者間の名古屋地方裁判所昭和四三年(行ウ)第一三号通学校指定処分取消請求訴訟の本案判決の確定に至るまでこれを停止する」との裁判を求めた。

抗告人らの本件行政処分執行停止申立の理由は左記の外原決定記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

抗告人らが当審において主張した事実は左のとおりである。

一、学校教育法施行令第八条による指定学校の変更は、教育委員会の決議があれば直ちに効力を生じ、その通知は効力発生要件ではない。仮りに然らずとするも、相手方が昭和四三年二月二日なした指定学校変更の決議は、相手方の意を受けた柴田教育委員から小笠原呂一にその伝達方を依頼し、小笠原呂一は直ちに川岸区公民館に川岸区の総会を招集し、抗告人らを含めた川岸区の住民に対し右決議の結果を伝達したものであるから、右指定学校変更の処分は効力を発生しているものである。

二、従つて相手方が昭和四三年三月一五日抗告人らに対してなした通知は右昭和四三年二月二日の処分を変更する新たな行政処分である。然るに相手方は学校教育法施行令第八条の申立に基づかず、又同令第六条所定の事由もないのに、一方的に右処分をなしたものであるから、右処分は違法である。

(疎明省略)

よつて案ずるに、疎第一号証の一ないし一二、同第二号証、同第五号証の一を総合すれば、相手方が昭和四三年一月二九日付をもつて抗告人らに対し、その児童らをそれぞれ田原町立神戸小学校へ通学せしむべき旨の通学校指定処分をなし、その旨抗告人らに通知したところ、昭和四三年二月二日抗告人らより指定学校変更の申立がなされたので、相手方は同日会議を開き右申立を認容し抗告人らの新入学児童を田原町立中部小学校に入学せしめることを許可する旨の決議をなしたことが認められる。

然し右決議は教育委員会内部における意思決定に止まるから、相手方が右決議に基づいて学校教育法施行令第八条による通知をなして始めて抗告人らに対する行政処分として成立するものと解すべきところ、相手方が抗告人らに対して右通知をなしたことを認めるに足る証拠はない。疎第一〇号証の一、二、同第一一号証の一ないし二八を総合すれば、右昭和四三年二月二日の決議の結果は当時の教育委員柴田敏幸より電話で田原町議会議員小笠原呂一に伝えられ、小笠原呂一より川岸区民総会において報告せられたことが認められるが、右処置が相手方の指示に基づいてなされたことを認めるに足る証拠がないから、右事実を以つて直ちに相手方より抗告人らに対する通知と見ることはできない。

してみれば相手方がなした昭和四三年二月二日の右決議に基づく行政処分は未だ成立していなかつたものというべきである。ところが、疎第五号証の三ノ一、同第三号証の一ないし一四を総合すれば相手方は昭和四三年二月一四日の会議において右昭和四三年二月二日の決議を取消し、昭和四三年三月一五日抗告人らに対し、前記指定学校変更申立を却下すること並びに抗告人らの児童は昭和四三年一月二九日付就学通知書のとおり神戸小学校へ入学せしめるよう通知したことが認められる。

そうすれば相手方がなした昭和四三年三月一五日付通知は抗告人らの指定学校変更の申立を却下することを通知し、そして念のため抗告人らの児童を入学せしむべき学校は昭和四三年一月二九日に通知した神戸小学校であり、前の通知に何等変更がないことを注意的に通知したに止まるものと解すべきであるから、昭和四三年三月一五日の通知は、通学校指定に関する限り新たな行政処分ではないといわなければならない。

行政事件訴訟法第二五条第二項所定の行政処分の執行停止は現存する行政処分の効力或は執行等を停止する手続であるところ、抗告人らが執行停止を求める昭和四三年三月一五日の通知は行政処分たる通学校指定処分でないことは前記認定のとおりであるから、結局抗告人らは行政処分でないものを捉らえて、その執行停止を求めていることに帰する。よつて抗告人らの本件申立は不適法であるからこれを却下するを相当とすべく、従つて右認定と同一結論に出でた原決定は正当であるから、本件抗告は理由がない。

以上の理由により抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 松本重美 山田義光 大和勇美)

(別紙目録省略)

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